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水風呂体験記

先日、スーパー銭湯へ行った。サウナと水風呂のサイクルが気持ちいいという噂を聞いたからだ。

普段ジムにもいかず、歩いて行ける近所にスーパー銭湯があるわけでもない私なので、サウナというものにはすっかりご無沙汰になっていた。でも調べてみたら、いつも歩いている街中にもけっこうあるものだ。大きなお風呂にもたまには浸かりたいと思っていたので、さっそく訪れた。

しかし、どこでも初めての場所というのはまごつくもの。フロントですでに、「どこで靴を脱ぐのか」ということから悩んでしまった。「初めてなんです」とすぐに伝えたら、丁寧ににこやかに接客してくれた。

料金を払って、隣のドアを開けると、すぐ前がロッカールームだった。多少キョロキョロしながら部屋に入る。大昔に通っていたジムの記憶と混ざり、どこからが服を全部脱いでいいゾーンなのか、あるいはどこからは服を着ていないとおかしい場所なのか、それすらもおぼつかない。でも、少し先の扉を見ると、そこがもうお風呂らしい。ということは、ここですっかり裸になっていいのだな。と思うがいなや、さっさと素っ裸になってお風呂に向った。銭湯慣れしている日本人なので、いったん脱いでしまったらなんてことはない。スタスタとお風呂ルームに入る。

入ると、いくつかの湯船に遭遇した。目の前の湯船にある液体を、そっと体にかけてみる。お、水だ!水風呂だ。いきなり入るなんて無理なので、いそいそと隣の普通の湯に移動し、かけ湯をしてから浸かる。

ジェットバスだのなんだの、数分ごとにクルクルと周って楽しんでから、ついにサウナに入ることにした。サウナは正直言って、得意ではない。昔入った何回かは、「気持ちいい」に行き着く前に「暑い、苦しい、もうダメ」の気持ちがまさり、好んで行く方ではなかった。だから今回もそんなに期待せずに入った。でも、なぜだろう。今回は暑すぎる気がしない。温度が昔のものより低かったのか? システムが新しいのか? 理由はわからない。でも、とにかくすんなりとサウナ自体を楽しめた。

何分かは計っていなかったが、「そろそろ出ようかな」という気分になった。そう、ついに水風呂タイムとなったのだ。いつぶりだろう、水風呂。水に浸かる。その行為に、最初は驚いたものだ。「夏の海でも、最初は凍えそうなのに!」と。でもサウナの後なのだ。きっと平気に違いない。証拠に、目の前にいるベテラン風の女性は躊躇なく水風呂に入ったではないか。私もそれに続こう。

そしてかけ湯(水?)をする。やっぱり冷たい。。でも我慢して脚に、腕にとかける。そろそろ浴槽に入ろうかな。片方の足を恐るおそる入れた。うーん、冷たい。でもここが勝負だ。私はまるでクラウチングスタートを初めてやってみた人みたいな恰好で、おまけにどうやってもお腹までしか浸かれず、フルフルと震えていた。

「今回はこの辺にしておこう。心臓にもしものことがあってはいけない」私はそう心で言葉にしてから、またサウナ室へ入った。今度も気持ちいい。ベテランさん達が座っていた、入ってすぐのところは避けて、なんとなく遠慮がちに奥の方に座る。さっきよりも快適な気がする。ぼーっとしながら、長めに座っていた。

今度こそ肩まで水風呂に浸かろう。そう決意して、水風呂に向かう。かけ水をしてから、そっと足を入れる。またもベテランさんさちが、なんの躊躇もなくスピーディに全身を浸からせた。「私もできるはず」そう信じて、平気な顔を装い体を沈めていく。しかし、どうしてもお腹の少し上で止まってしまう。「私はあえてこのあたりまでで止めているの。これが好みなの」と、誰にも気にされていないのに、心で言い訳をする。

またサウナ室へ戻ることにした。座っていると、スタッフの方が入ってきた。何やら、ハーブの香りをする物体を持ち込み、さらにそれを部屋に充満させるため、タオルを振ってくれるらしい。確かにハーブのよい香りがしてきた。そしてそのタオルの振り方が、まるでブルース・リーのヌンチャクのような扱いであった。なんだかかっこいい。おっちょこちょいな私がやったら、手からすべって、お客様の顔にバシンとぶつけてしまうのではないか。そんなことを考えながら、華麗なその手つきを眺めていた。おまけに、最後にはサウナ室にいる一人一人に、三度ずつ、船の帆みたいな布で風を送ってくれた。バサッ、バサッ、バサッ。きれのあるその振り方に、またも見とれ、そして風も心地よく受け止めた。

さあ、今度こそ。三度目の正直である。サウナ室を出て、水風呂に向った。いったん躊躇するから、なんだか凍えた気分になってしまうのだ。きっと体の準備はできているに違いない。今回は、ゆっくり、でも止まることなく水に体を沈めていった。お腹までくると「あっ、どうしよう」となったが、でも我慢。きっとすごい顔をしていたかと思うが、ついに肩まで浸かれた。「ふあっ」という、間抜けな声が出た。でもベテランさんたちは聞えなかったフリをしてくれた。いや、そもそも私の行動など気になっていなかったのが本当だろう。

水風呂は、最初は寒い。どんなにサウナに入った後でも。しかし数秒後、不思議な感覚に襲われる。むしろ温かく感じてくるのだ。まさに、海に凍えながら浸かって、しだいに浜辺にいるときより、海の中の方が温かく感じてくるときに似ている。あれの凝縮バージョンとでも言おうか。私の毛穴が今、開いたり閉じたりしている! という妄想が駆け巡る。これはきっと老廃物を排出しているはずだ。血のめぐりもよくなっているはずだ。科学的なことは分からないが、気分としてはそうなる。汗をたくさんかいて、今度は急激に冷やす。こんなに単純なことが、こんなに気持ちいいなんて。やっと全身浸かれた喜びもあいまって、ニヤニヤとしながら、でも平静を装ってそのままじっとしていた。

サウナ→水風呂の流れは、全部で20分近くの出来事である。たったこれだけの時間で、大きな冒険ができた。「わざわざ二千円ちかくも払って、お風呂もなあ」と、今まで関心のなかった私だが、これからは何かのご褒美として、時々浸かりに来ようかな、と思った。