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『王様のためのホログラム』

久しぶりに映画の感想を書こうと思う。

 

『王様のためのホログラム』。この映画を知っている人はどれほどいるだろう。

 

『ラ・ラ・ランド』旋風吹き荒れる中、小さなスクリーンでひっそりと公開しているように見えるこの映画。私も『ラ・ラ・ランド』をもう一度観ようかな、と時間ギリギリまで迷った末に観たのが正直なことろである。ごめんよ、トム・ハンクス

 

一言で言えば、少し退屈、でも心地よい作品だった。退屈の理由は、脚本に原因があると感じた。どこに話の中心があるのか、分かりにくかったのだ。これはタイトル自身に問題があるのでは?と思った。「王様」も「ホログラム」も出番がわずか。出番がわずかであっても、全体を象徴するような大きな存在感があればいいのだが、それもいまいち分からず。「ホログラム」は、主人公の抱える心の葛藤などを投影する役割とも考えられるが、でも、もう少し映画内での存在感があってもよかったかな、と思った。「王様」にいたっては、数分しか出てこない。まあ、いつも姿が見えない、というのがジョークのネタではあるので、それはそれでいいのかな、と思ったり。

 

他にも、「うーむ」という箇所はいくつもあったのだが、何となく憎めないこの映画。それは、「ホログラム」という幻影にも近いものを取り扱っていながらも、リアリティを失いすぎていない設定だからだろう。トム・ハンクスは中年のおじさんで、色いろと人生が行き詰まっている。その中年疲れを隠さない、むしろ強調する役柄に好感を持てた。

 

もう一人の重要人物、女医もまた中年である。ハンクス同様、しわもそのまま、スリムすぎない自然な体形もそのまま。美しく凛としているが、架空に寄り過ぎない描き方が良かった。

 

私は映画を観る前に、あまり情報を知り過ぎたくない方なので、監督やキャストを調べないままに観た。そして観賞後に公式ホームページで、やっと情報を得た。するとそこにベン・ウィショーと出ているではないか。映画を観ながら、「この人ベン・ウィショーに似てるな。いや、でもこんな脇役に彼が出るか?カメオ出演だとしたら、アップのシーンくらいあるだろうし。」などと考えていたのだが、本当に彼だったとは。トム・ティクヴァ監督の常連だということだ。それは粋な配役。ウィショーは私の気に入る映画によく出ている。

 

あと、気になったのは宗教の描き方。アメリカ人の主人公が、ムスリム文化のなかで体験することをジョークも交えながら見せていくわけだが、その文化に詳しくない私は、どこまでが「わっはっは」と笑ってもいいギャグなのかが分からなかった。そして「大丈夫かな。叱られる表現ではないのかな」と一人でハラハラしていた。特に昨今の緊迫した世の中を見ても、宗教の話題は慎重にならざるをえない感がある。ただし、寛容さがあるからこそジョークにできるという理屈もあるだろう。文化の違いがあっても、「それは些細なこと」という、劇中のセリフのように、人間同士の繋がりを大切にしようというメッセージだと受け取った。

 

最後に、心に残ったシーンを一つ。主人公は女医に手術してもらったのだが、のちのやりとりで、「君は何か忘れ物をしていないかい?例えば、ゴム手袋とか。その人と再会する口実を作るために、わざと忘れ物をすることってあるよね」という言葉が出てくる。ここで思い出したのは、トム・ハンクスツイッター。彼は、街に落ちていたと思われる物をよく写真に撮ってアップしているのだ。特に多いのは「手袋」。時々見ては、「おもしろいことを呟くなあ」と思っていたのだが、まさにこのシーンと繋がったのである。ハンクスのツイッターありきで加えられたセリフなのでは?と思ったほどだ。原作は未読なので分からないが。「きっと、ハンクスはこのシーンをニヤニヤしながら演じたに違いない」と、これまた一人で想像しながら楽しんでいたのだった。また、「再会したいからわざと忘れ物をする」という言葉もいいなあと思った。故意に忘れ物をした記憶はないけれど、物の貸し借りなどは、そういう面も確かにあるな、と思った次第。

 

つらつらと書いたが、傑作ではないけどなんとなく観て良かったなという私の気持ちが伝われば嬉しい。