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本文より対談がおもしろかった本

本日読んだのはこちらの文庫。
二村ヒトシ著『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』。

先日読んだ同著者の『すべてはモテるためである』が興味深かったため、すぐにネットで注文したのだ。しかし、私の手元にはこの本が二冊ある。一冊はソフトカバー、一冊は上記の文庫。

なんと、タイトルを変えて出していたので、作者名だけ見てうっかりどちらも買ってしまったのだ。ソフトカバー版のタイトルは『恋とセックスで幸せになる秘密』。うーむ、このタイトルで筆者を知らなかったら果たして私がこの本を手に取ることはあっただろうか。単行本化のときに改題して正解だと思う。しかし二冊もあるって、大ファンみたいだ。

とりあえず、私は文庫版を読み出した。結論から言うと、この文庫版に追加された対談が出色のおもしろさだった。

もちろん本文も楽しめた。作者は「心の穴」や「自己受容」といったキーワードを絡めて書き進めていく。 

「心の穴」は誰もが持っているもので、それは必ず親などの自分を育ててくれた人の影響を受けている。愛情を受けた受けないに関わらずである。それは、言い換えれば「思考のクセ」などとも言える。恋愛相手がどんな人であろうと(例えひどいことをされたと自分が後で後悔するような人であろうと、)そういったタイプの人をあなたは求めていたのだろうという解説だ。

「自己受容」は、「私は、このままでいい。無理しなくても生きていける」と、ありのままの自分を認めて受け入れることだという。その反対がナルシシズムで、それは「自分への恋」だと言い換えられるようだ。同じ「自分を好き」というフレーズでくくられそうなこの二つの違いに気付き、「自己受容」することが、恋愛でも生きていくうえでも大切だといったことを説いている。

ここまで読んで、なるほどなあと思った。ただ、この本はそこでは終わらなかった。巻末に、作者二村ヒトシと、臨床心理士信田さよ子の対談が載っている。タイトルは、「どうして女性学はあるのに「男性学」はないんですか?」だ。

信田はこの本について、「心理学や精神分析社会学なんかで難しく言われていることを、「心の穴」とか分かりやすい言葉で表現している」と褒める。しかし、このままななごやかに対談が進むかと思いきや、予想外の展開となる。それは二村がこんなことを言った時だ。「女性の中には、菩薩とか母性じゃないけど「ゆるぎないもの」があるような気がしていて・・・・・・」。怪訝そうな信田に対し、二村は「女性を美化しすぎですかね」と重ねるが、信田はこう返す。「「菩薩」っていい表現に聞こえるけど、実際には「女性には頭脳がない」ってことを言ってるんですよ。あーもうそんなこと言わないで、二村さん。あなたこんな本書いて、ここまで話していて、なぜそんなこと言うかな(笑)。二村さんの中にいる「いい女」というものの「ある種の原型」がそれなのね(略)」容赦ない信田の返答に、二村は「・・・・・・・・・。」となってしまう。

読んでいるこちらがハラハラしてしまった。二人は喧嘩するでもなく、あくまで真摯に話し合っているので、穏やかに対談は終わる。しかし、二村が絶句してしまったところは、「あらら、でも確かにそうだな」という気持ちで読んだ。男女の心について深く洞察し、このような本を書くような人でも、やはり人間である限りはある種のステレオタイプや時代錯誤の考えに縛られている。その本音がポロッと出てきてしまったところに、異性である信田が意見したのだ。

この本は、主に「女性が幸せな恋愛をするためにはどうすればよいか」という視点で書かれている。だからこそ、そもそもの男性から女性に対する願望が、女性から見てご都合主義に思えるものであったなら、この本全体のアドバイスが脆くも崩れてしまう。女性は生まれつき「菩薩」だ、だからなんでも受け入れてくれるに違いないという前提があったとするなら、それは違うと私も思う。人の善悪に男女はない。どちらの性がどんな性質をもっていて、何に秀でているかは、多くは社会的要因から作り上げられるものだと考える。

この対談をおもしろく読んだのは、男性が持ちがちな理想像が見えたからだ。ただし、「だから男性ってダメだ」などとは私は言えない。なぜなら、いくら理性的になろうとしても、私だって「男性ってこういうもの」「女性はこうした方が受け入れられやすいし生きやすい」といった無意識の決め付けを、知らず知らず行っているだろうからだ。人間は個々人で違って当たり前なのに、ついそうしたステレオタイプに当てはめてしまう。そういったものから全く自由でいられることはないと思うが、それらの思い込みにとらわれすぎたくないと再度思ったのだった。

色々と書いたが、だからといって本書が説得力を持たないとは思わない。こういうアドバイスが載った本は特に、盲信せず、否定ばかりもせず、「自分はどう考えるか」ということのヒントにするのが良いのだろう。まずは「心の穴」「自己受容」と自分の関係について、考えを巡らせてみたい。